竜の雲番外01


〔竜の雲:第五章から番外編〕



先の戦いで負った右肩の傷が完治するまで、遊士は彰吾から大人しくしているよう言い渡された。それから数日―。

基本的に身体を動かす事が好きな遊士は暇を持て余していた。

城の中をうろうろと、鍛練場を覗いたり、厨に顔を出したり、愛猫白桜と戯れたり、愛馬の様子を見に行ったり…、しかし、それも昼を過ぎれば暇になってしまう。

畑へ向かう彰吾を見送りながら、藍色の着流しに草履を突っ掛けて遊士は庭へと降りた。

手入れの行き届いた庭をのんびりと散策する。

じゃりじゃりと砂利を踏み、池の中をゆうゆうと泳ぐ鯉を見つけて呟く。

「…鯉って美味いのかな?」

暇すぎてどうでも良いことを考える。

すぃと逃げる様に離れていった鯉から目を離し、庭の奥へと更に足を進めた。

「ん?…政宗?」

するとその先には、同じく怪我が治るまで安静を言い渡されている政宗が、縁側に座って庭をぼんやり眺めていた。

「ah?…遊士か。どうした?」

特別、気配を消していたわけでもなく、すぐにこちらに気付いた政宗から声を掛けられる。

「んー、暇潰しがてら散歩。政宗こそ何してんだ?」

側へ寄っていって遊士は足を止めた。

「俺は休憩中だ」

チラリと後ろを振り返った政宗に、ここが執務室の側の縁側だと気付く。

いつの間にかこんなところまで来ていたらしい。

「まぁ、座れよ」

政宗に促されて隣に腰を下ろす。

「…政宗。怪我、大丈夫か?」

松永にやられた怪我の上に、止める為とはいえ、追い撃ちをかけたのは自分だ。

「ha、俺はそんな柔じゃねぇよ。小十郎がうるせぇから大人しくしてるだけだ」

ふっと笑って伸びてきた政宗の手が遊士の髪をくしゃりと撫でる。

「だからお前が気に病むことは何一つねぇ。You see?」

「…ん」

しょんぼりと大人しく政宗の手を甘受する遊士に、政宗は瞳を細め、クツリと声に出さず笑った。

素直で可愛いとこもあるじゃねぇか。

「政宗」

「ん?何だ?」

「オレ、今回のこと、反省はしてるけど後悔はしてないから」

政宗に刀を向けたこと。もっと他にやり方があったんじゃないかって反省はしても、政宗を止めたことは後悔してない。

一瞬前のしょんぼりとした空気を欠片も感じさせず、凛とした強い眼差しが政宗を見据えてそう告げた。

それを受け、政宗は遊士の髪に触れていた手を一旦止めると、口端を吊り上げる。

「それで良い。…上出来だ。お前の判断は間違っちゃいねぇよ」

褒めるように表情を崩した政宗に、遊士もつられて頬を緩める。

「おぅ」

「これからも頼むぜ、遊士」

ぐしゃぐしゃっと最後に頭を撫でられ、政宗の手が離れる頃には遊士の耳はほんのり赤く染まっていた。



end.

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